栗栖ひよ子著の『夕闇通り商店街 純喫茶またたび』を読みました。
第一弾である『夕闇通り商店街 コハク妖菓子店』、第二弾である『夕闇通り商店街 たそがれ夕便局』に引き続き優しい物語となっています。
黒猫のマスターも出てくるため、猫好きの方にもおすすめです。
ぜひあなたも癒されてください。
作品情報
書名: 夕闇通り商店街 純喫茶またたび
著者: 栗栖ひよ子
出版社: ポプラ社
ページ数: 197ページ
文庫本
Kindle版有 (2024年11月現在)
この本をおすすめする人
- 他人の気持ちが気になっている人
- 本音がなかなか言えない人
- 猫が好きな人
あらすじ
「夕闇通り商店街」――そこは幽世と現世の境目にあり、妖たちが営んでいる。
幽世との境界があいまいになったとき、心が不安定な人間が導かれたように訪れるのだ。
その商店街にある「純喫茶またたび」の店主は蝶ネクタイをつけた猫又で、レトロな雰囲気の喫茶店である。
このお店は少し変わっており、お代はお金ではなくメニューにまつわる思い出を話すことだという――。
訪れた客は「思い出」を話すことで、自分の心に気付いていく。
読んだ動機
第一弾、第二弾と個人的に刺さる物語だったので購入しました。
感想
あらすじ通り自分の心を気付かせてくれる物語でした。
この物語に出てくるのは『譲ったほうが負け』だと思っている女子大生、姉にわがままばかり言ってしまっていたと後悔している女子高生、後輩社員と上手くいかない社会人、地元が恋しいが戻りにくい女性、息子との距離感に悩んでいる母親。
相手の気持ちが気になって悩んでいる人たちばかりです。
個人的に好きだったのは『譲ったほうが負け』だと思っている女子大生・紗菜の物語。
紗菜は自分のことを、相手の好きなものに興味を持てないつまらない人間だと思っていました。
自然消滅のような形で別れた元彼と付き合っていた時も、勧められた音楽や古着屋で買ったという服も紗菜にとってはよく分からず、相手の趣味に寄り添うことができなかったからです。
そんな自分だから元彼のこともなんとなく心残りで、今好意を寄せてくれている本多くんのアプローチもかわしていました。
そんな時に、夕闇通り商店街の「純喫茶またたび」にたどり着きます。
頼んだのは元彼の好物だったクリームソーダ。
元彼と付き合っていた時紗菜は彼の好みをバカにして、一度も飲んだことがありませんでした。
実際飲んでみると予想外にも美味しくて、もっと彼と好きなものを共有しておけばよかったと後悔します。
純喫茶またたびの店主であるマスターにお代である思い出を話しながら自分の気持ちと向き合った紗菜は、その後自分のやるべきことは元彼に連絡を取ることではないと気付き、本多くんが勧めてくれた本を読み始めます。
それは、私にはない発想だった。今まで、買った本が合わなかったら『時間がもったいなかった』と考えていた。きっとクリームソーダだって、おいしいと思えなかったら『損した』と感じていたんじゃないかな。でも、そうじゃないんだ。経験しなかったら、それさえもわからない。『自分は好みじゃないけれど、この人は好きなんだ』と発見できるだけで、それは前進で成長なんだと気づけた。
そして自分の好きなものを共有してもらえるのは、とてもうれしい体験だということも。『夕闇通り商店街 純喫茶またたび』栗栖ひよ子
「興味ない」で終わらせてしまうことは簡単だけど、好きも好みじゃないも知っていくことって自分の成長になるって教えてくれた物語でした。
そしてこの本の最後は「純喫茶またたび」の店主・マスターと飼い主さんとの物語となっています。
愛してくれた飼い主さんとの出会いと日常、そして最期。
お別れがあまりに切なくて苦しくなってしまいました。
少しずつ前を向いて進むマスターのところに、いつか常連さんが訪れたらいいな。
\第一弾『夕闇通り商店街 コハク妖菓子店』の感想はこちら/
\第二弾『夕闇通り商店街 たそがれ夕便局』の感想はこちら/
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